[公開日] 2023 年 11 月 7 日午前 8 時 38 分 (EST)
[著作者] Nichol Castro
本棚に辞書を置く時代も終わりに近づいています。 しかし、それは問題ありません。なぜなら、誰もがすでに辞書を持ち歩いているからです。携帯電話にある辞書ではなく、頭の中にある辞書です。
物理的な辞書と同じように、心の辞書 (mental dictionary) にも単語に関する情報が含まれています。 これには、単語の文字: letters、音: sounds、意味: meaning or semantic、に加え、品詞に関する情報や、単語を組み合わせて文法的な文章を形成する方法に関する情報が含まれます。 心の辞書は類語辞典 (thesaurus) のようなものでもあります。 単語を接続し、意味、音、スペルがどのように似ているかを確認するのに役立ちます。
単語検索の研究者、つまりコミュニケーションのために記憶から単語を素早く正確に引き出す方法を研究している研究者として、私は心の辞書の中で単語がどのように整理されているかに興味をそそられます。 人それぞれの心の辞書は少しずつ異なります。 そして私は、特に言語障害 (language disorders) を持つ人たちの心の辞書の内容を復元したり、その使用法を改善したりする方法にさらに興味を持っています。
言語は人間を特別なものにする要素の一部であり、誰もが他の人に対して自分の言葉を使う機会を受けるに値すると私は信じています。
あなたの心の辞書
物理的な辞書は知識の共有に役立ちますが、個人的な心の辞書は個人の経験に基づいてカスタマイズされます。 私の心の辞書にある単語は、同じ言語を話す他の人の心の辞書と重なるかもしれませんが、私たちの辞書の内容には多くの違いもあります。
教育、職業、文化、その他の人生経験を通じて、心の辞書に言葉を追加します。 このカスタマイズは、心の辞書のサイズが人によって少し異なり、年齢によって異なることも意味します。 研究者らは、平均的な 20 歳のアメリカ英語話者は約 42,000 の固有の単語を知っており、この数は 60 歳までに約 48,000 に増加することを発見しました。人によってはさらに多くの語彙を持っている人もいます。
あなたは今では、頭の辞書を、必要に応じてめくることができる、アルファベット順に単語のページが並んだ本のようなものだと想像しているかもしれません。 この視覚的な例えは役に立ちますが、心の辞書がどのように構成されているかについては多くの議論があります。 多くの学者は、おそらくアルファベット順に並べられた本とは違うことに同意しています。
広く否定されている理論の 1 つである「おばあさん細胞仮説*」 (the grandmother cell theory) は、各概念が単一のニューロンによってコード化されることを示唆しています。 これは、「おばあさん」を含む、知っているすべての単語に対して (それに反応する専用の) ニューロンがあることを意味します。(注1*)
正確であるとは認められていませんが、脳の特定の部分が特定の種類の情報にとって他の部分よりも重要であることを示唆する 「おばあさん細胞仮説」のこの主張はおそらく真実だと私は考えます。 たとえば、脳の側面にある左側頭葉: the left temporal lobe には、単語の検索や生成などの言語処理に重要な領域が多数あります。また、 並列分散処理: parallel distributed processing と呼ばれるモデルは、概念の処理を担当する単一のニューロンではなく、脳全体のニューロンの大きなネットワークが連携して機能し、それらが同時に発火することで単語の知識を引き出すことを提案しています。
たとえば、私が「犬」という単語を言うとき、たとえ無意識であっても、あなたの脳はその単語のさまざまな側面を検索します。 雨の中を外に出た後の犬の匂い、犬の鳴き声、犬を撫でたときの気持ちなどについて考えているかもしれません。 あなたは一緒に育った特定の犬のことを考えているかもしれませんし、犬との過去の経験に基づいて犬に対してさまざまな感情を抱いているかもしれません。 「犬」のこれらのさまざまな特徴はすべて、脳のわずかに異なる部分で処理されます。
心の辞書を使う
心の辞書が物理的な辞書のようにはならない理由の 1 つは、心の辞書が動的であり、すぐにアクセスできるためです。
単語を検索する脳の能力は非常に速いです。 ある研究では、研究者らは24人の大学生が写真に名前を付けている間の脳活動を記録することで、単語検索の時間的経過をマッピングしました。 彼らは、参加者が画像を見てから 200 ミリ秒以内に単語を選択したという証拠を発見しました。 単語を選択した後、彼らの脳は、選択した単語を言うのにどのような音が必要かなど、関連する単語を無視して、その単語に関する情報を処理し続けました。 これが、リアルタイムの会話で非常に高速に単語を検索できる理由です。多くの場合、そのプロセスにほとんど意識的な注意を払わないほど高速に単語を検索できます。
…単語の検索ができなくなるまでは。 単語検索におけるよくある失敗の 1 つは、舌先現象* (the tip-of-the-tongue phenomenon) と呼ばれます。 使いたい言葉はわかっているのに、その瞬間に見つからないときの感覚です。 同様の意味を持つ他の単語や、その単語の最初の文字や音など、必要な単語についての具体的な詳細がわかる場合もあります。 十分な時間があれば、欲しかった言葉が頭に浮かぶかもしれません。(注2*)
このような舌先の経験は、生涯を通じて人間の言語経験の正常な一部であり、年齢を重ねるにつれて増加します。 この増加の理由として考えられるのは、選択した単語を言うのに必要な正しい音を発する能力が加齢に伴って障害されるためであるということです。
しかし、一部の人にとっては、舌先の経験やその他の音声の間違いが非常に障害となる場合があります。 これは、脳卒中などの脳の言語中枢の損傷や、認知症などの神経変性の後によく起こる言語障害である失語症でよく見られます。 失語症の人は、単語を思い出すことが困難であることがよくあります。
幸いなことに、単語検索能力を向上させるのに役立つ治療法があります。 たとえば、意味特徴分析: semantic feature analysis は、単語間の意味関係の強化に焦点を当てます。 言葉の生成に必要な音声の選択と生成の強化に焦点を当てた音運動療法: phonomotor treatment のような治療法もあります。 電話やコンピュータ上で単語検索セラピーを遠隔から提供するアプリさえあります。
次回誰かと会話するときは、なぜその特定の言葉を選んだのかをじっくり考えてみましょう。 あなたが使用する言葉とあなたが持っている心の辞書が、あなたとあなたの声をユニークにするものの一部であることを忘れないでください。
この記事は、クリエイティブコモンズライセンス(CCL)の下で The Conversation と各著作者からの承認に基づき再発行されています。日本語訳は archive4ones(Koichi Ikenoue) の翻訳責任で行われています。オリジナルの記事を読めます。original article.
[編集者注]
(注1*)おばあさん細胞仮説 脳の中には自分のおばあさんを見たときだけに特異的に活動する単一または少数の細胞が存在し、この細胞の活動が自分のおばあさんの対象認識に対応するという仮説。神経細胞活動による情報の符号化の議論において引用される概念である。視覚対象認識において用いられることが多いが、他の感覚種(モダリティ)に拡張し、複数の特徴(異なるモダリティ間も含めて)の特定の組み合わせの対象または記憶の情報に対して一対一の関係で活動する単一の細胞の存在を仮定する脳の符号化モデルとして一般化される。[京都大学大学院 医学研究科 システム神経薬理学分野 脳科学辞典]
(注2*)舌先現象(したさきげんしょう、、英: Tip of the tongue phenomenon)は心理学用語であり、思い出そうとすることが「喉まで出かかっているのに思い出せない」現象である。舌端現象や英語の頭文字を取ってTOT現象などの別名でも呼ばれる。 Wikipedia (JA)